2016年9月20日火曜日

記録してないシリーズ

※基本的に僕の物語はフィクションです。


「だからね、ラッパーだからこそ自分の事をラップするべきじゃないと思うわけ」
僕は妻にそう言った。

僕には昔から結婚願望がなくて、何ていうか一つの諦めを表現する戯れ言として「俺はナンバーガールを好きな女としか結婚しない」と息巻いてきた。
その度に、ナンバーガールを知らない大学の連中にはポカンとされ、ナンバーガールを知ってる冴えない地元の男友達には「そんな女いねぇよ」と言われてきた。

今でこそ、東京で音楽活動をしているからこそナンバーガール好きな女性とたくさん知り合えたけど、僕が田舎で高校までくすぶった挙句に、理系の大学で音楽好きな人間を見つける事が出来なかったその道程にはナンバーガールを聴いてる人間が本当にいなかった。
ましてや、思春期から女子と喋るのが極端に下手になってしまったもんだから、仮にナンバーガール好きな女の子がいたとしても僕なんかが知り合えるはずがない。
せっかく、大学で女の子と少しずつ喋れるようになってきたのに、大学にもバイト先にもナンバーガールを知ってる女の子は一人もいなかった。
だから、僕は「ナンバーガールが好きな女じゃない結婚しない」と心に誓ったのである。
さっきも言ったが、これは「結婚なんか一生してやるもんか!」という諦観を格好よく言い直しただけのものだ。

ただ、人生、マジで何があるかわかんないもので、ひょんな事で今の妻と知り合う事になる。
この辺の馴れ初めに全然面白くないから割愛するけど、妻はいわゆるサブカル女子(死語)というやつだった。
僕の狭い狭い交友関係、カーストの低さから見た世界には、そんな子が一人もいなかった。
だから、サブカル女子ってのはメディアとインターネットがでっち上げた架空の存在だと思っていた。
そんな僕の妄想に反して、妻は出会ったその日に行ったカラオケで、いきなり銀杏BOYZの「べろちゅー」を歌い出した。
その時はぶっちゃけ、何かの夢かよ!と思って体中の痛い場所を数箇所、確認した。
妻がこの日、ナンバーガールを歌ってくれたら、死ぬかもしれない。僕はそう思った。
死ぬかもしれないと思った矢先に妻は「delayed brain」を入れた。
だから僕は死んだ。
まるで、モテキの藤くんだ。

ナンバーガールをカラオケで歌うなら、「透明少女」とか「鉄風、鋭くなって」とかが相場だと思っていた。というか、「透明少女」くらいしか選択肢ないでしょ、なんて思っていた。
もう完全に思考がモテキの藤くんである。

まあ、そんなこんなで僕は結婚に至る。

「だからね、ラッパーだからこそ自分の事をラップするべきじゃないと思うわけ」
僕は妻にそう言った。

「お前のラップなんかどうでもいいわ。お前は『マンガ道』や『アオイホノオ』や『僕の小規模な生活』みたい自伝的なラッパーの小説でも書いてろ」

妻はそう言いながら、シン・ゴジラの第二形態のフィギュアを色んな角度から眺めていた。