2015年3月24日火曜日

奇数と偶数


君の人生を百八十度変えてしまうような、そんな文章を書かないといけない。

僕は毎度、そんな殺し文句を枕にして文章を書いてきたが、これは失敗だった。
ナゼナラ。
僕の随筆を二回読んだら、百八十度に百八十度。元に戻ってしまうからだ。
僕の随筆を奇数回読めば、君の人生は百八十度変わるが。
僕の随筆を偶数回読めば、君の人生は一周して一切変わらない。

今回はそんな奇数と偶数の話。


時系列的には小学六年生と中学一年生の間の春休みの話だ。

まあ、奇遇な事に今くらいの季節の話だ。
しかも、僕はこのためにわざわざ当時の自分にメールして、リアルタイムの目線でレポートを書いてもらった。
というわけで。

十二歳編の始まりだ。


僕は十二歳で、この春休みが終わったら中学生だ。

僕が勉強をしなくなったのは高い参考書を毎日のように売りつけてくる営業のせいだ。
奴らは完全に僕のやる気を削いだ。
ある訪問営業は母と僕の目の前に中学三年間で使う教科書を全て積み上げて見せた。具体的に何センチの高さになったのかは忘れちまったけど、メジャーでわざわざ測って自慢気に数字を口にされたのは覚えている。
んで、その後にそいつの売ってる参考書を五冊、積み上げたんだ。
「受験で実際に使うのはこの教科書全部の一割にも満たないんですよ。君は一割ってわかるかい?」
「十分の一って事でしょ」
「その通り、お母さんは随分賢いお子さんをお持ちのようで」
褒められて悪い気なんかしないけど、そんなの誰でもわかるだろ?と思った。

軽く調子に乗せた僕を試すように営業マンはこんな質問をしてきた。

「偶数と奇数をそれぞれ説明できるかい?」
「偶数ってのは二で割り切れる数、奇数は割り切れない数」
「八十点だね。でも、かなり優秀だよ。奇数はね、二で割ると一余る数の事を言うんだ」
「はあ」
「とにかくね、この積み上げたこの教科書の山、これを全部覚えるのは面倒だと思わない?」
「思う」
「高校受験に出る所だけが分かったらすごく楽だと思わない?」
「思う」
「それが今、ここに置いた五冊なんだよ。びっくりするくらい薄いよね。これだけマスターすれば受験で十分通用するんだよ」
訪問営業の話をちょっと聞いてから追い返すつもりだったのに。

やっぱ僕は十二歳だ。
二で割ったら何も余らない。

美味い話ってやつに免疫がなかったから、中学生ってのは想像よりずっとイージーな世界なんだって思っちまったのさ。
最初から大事な一割しか話を聞かないより、十割聞いて一割覚えてた方が利口なんだって、わかってたはずなのに。
そもそも、奇数と偶数をそれぞれ百点の説明を出来るくらい頭が良かったらあんな奴の話すら聞かなかっただろう。
しかし、僕は受験に出ないイコール聞く必要が無いなんて判断を下してしまった。
そういう意味で僕は頭が悪かった。
おかげで僕は人の話を一割しか聞かないくせが付いてしまった。
友人が父親の部屋からくすねてきたアダルトビデオを早送りして自分が観たいシーンにしか目を向けない。
きっと、これは想像だけど、この先の未来、僕らは抱え切れない情報を得るだろう。一枚のアルバムを傷が付くほど聴く事はなくなるだろう。
自分が欲しい部分だけ切り取って、残りは知らない。
そんな風にしないと消化しきれない情報過多に備えて僕は今日も勉強をサボる。

いずれ僕は十三歳だ。
二で割ったら一余る。









二で割ったら一余るくらいに、この散文たちを読んで欲しいもんだ。

二で割ったら一余るくらいに、僕のTシャツやキャップを買って欲しいもんだ。
僕のためだと割り切って買って下さい。

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