2015年2月23日月曜日

ルドイアさん

君の人生に影響を与える文章を書かないといけない。
君の人生を百八十度変えてしまうそんな文章を書かないといけない。



僕は大学を卒業してから暫く就職ができなくて、非常に惨めな気持ちのままでフリーターをしていた時期がある。
アルバイトは二つ掛け持ちして、就職活動をしながら、ちょくちょくライブもしていた。
思い返せばいつ寝ていたんだろう?っていう過眠体質の僕からすれば奇跡のような日々である。
その頃の僕と言ったらいつもそんな調子だった。

掛け持ちバイトの一つが某ファミレスで、僕はパートのおばちゃんたちに混じってランチタイムの奴隷となっていた。
僕以外はほぼ全員おばちゃんだった。
店長と僕ともう一人以外は全員おばちゃんだった。
この話は、そのもう一人についての話だ。
オチのある話じゃないし、そんなに面白いもんじゃないけど。

その子は二十歳前後の女の子で、やけに美人で、モーニングから長い時はディナーまで平日土日を問わずにフルで働いていた。
まあ、おそらく結婚が早かった若奥さんなのだろうなんて僕は勝手に思っていた。
僕は人様に質問をぶつけるのが苦手で、未だの周りの人間の年齢だったり下の名前だったりを知らなかったりする。だから、その子の事も推測でしか知らなかった。
質問くらいしとけばよかったな。
ある日、その子と休憩の時間が一緒のタイミングになり、狭い休憩室で二人きりになる機会が訪れた。
その子は人当たりのいい雰囲気を持っていて本当に気の利くタイプだったから、僕がメシを食い終わる前に「年齢いくつなんですか?」って僕に質問をしてくれた。
大学生ですらない自分を軽く責めながらも正直に答えると、次のタイミングで僕は自然に彼女の年齢を聞く事ができた。
まさか、十六歳だとは思わなくて普通にギョッとした。
でも、人間の脳みそってのは阿呆なもんで、十六歳だとわかるとその子がちゃんと十六歳に見えるように補正してくれる。
まあ、確かに十六歳だ。
ただ、残念ながらこの先において会話は続かなかった。完全の僕のコミュニケーション能力不足だ。
僕がメシを食い終わるタイミングで、僕も彼女も携帯電話をいじりだし、各々の脳みその休憩に入った。
この時、僕は彼女と話す事より単純に疲れてるから休みたかったから、彼女がお喋り過剰じゃなくてよかったなとすら思っていた。

十六歳で高校に通ってないという所まではシフトを見て推理できた。定時制に通ってる気配すらない。
じゃあ、家が凄く貧乏だとかネガティヴな事情があるのかしらなんて思っていると出勤時の私服の気合いの入りようが普通じゃない。十六歳であそこまで服に金を掛けられるものなのか。
それでいて仕事振りや話し方から察するに特別頭の悪い子でもない。というか他のバイトの子に比べたら二倍も三倍もしっかりしてる。
そして、有名人を生で観た時に感じる「うわっ、顔小っさ!」っていう気持ちが頭に浮かぶような容姿で、顔もすごく整ってる。
この子は一体何者なんだろう?と僕は思ってはいたけど、調べようとも別に思わなかった。

僕はバイト先に親しい人間が一人もいなかったので(大学生という枠がはみ出た途端に、知らん人に自分の話をするのが嫌になって、誰とも仕事以外の話をしなくなったからだ)誰々と誰々が付き合っててとか、誰々と誰々が仲悪くてとか、そういう店内の相関図をまるで知る由もなかった。
まあ、でも察するくらいはできた。
その子は、前にこのファミレスで働いていた元専門学生と付き合っているらしい。
その子は、この店の他の若い女の子のバイト仲間らに嫌われているらしい。
直接、誰から話を聞いたってわけでもないけど、そういうニュアンスの話をしてるのが耳に入ったりしてきた。
この頃の僕は酷く無関心で、結構毎日死にたいと思っていたし、基本的に自分以外の人間に起きている物語には興味がなかったから、こうやって文字に起こしていると本当にざっくりしてしまってるし、真実がわからない。
ある日、休憩室に行くとその子が泣いていて、警察が尋問をしている場面があった。
これもまた察するしかないのだけど、どうやら定期券を買うための金を財布を入れてきたらしくそれを誰かに盗まれたらしい。
このファミレスの貴重品の管理はかなり適当で、従業員の信頼関係だけで成立していた。僕だって、平気で財布を置きっぱで厨房に出ていたくらいだから、管理が適当だって事すら意識してなかった。
結局、犯人は見つからないし、この店の雰囲気は僕の知ったこっちゃねーが日に日に悪くなっていった。

思い返してみると、本当にこの時期が人生で最も他人に無関心だった気がする。だって、僕は常に自分がどう思われてるとかを気にして過剰に反応したりして、無駄に気疲れを起こしてきたタイプなのに、この頃だけはそういったトラウマがまるでない。
当時の同僚と一生の付き合いになるなら話は別だけど、気にしないっていう事の効果の凄さを心身で感じている。

ここまで読んでもらったのに尻切れトンボで申し訳ないが、僕はそのバイト先の女の子が果たして何者だったのかまるで知らないのです。
もしかしたら、どっかで地下アイドルでもやってんじゃねぇかな?って思ったりもしたけど、当時はそんなに盛んな業界じゃなかったから多分違う。
名前を検索して正体が判明すればオチも付くんだけど、僕は彼女の名前すら思い出せない。
ついでに言えばその時の店長の名前すら思い出せない。
本当に無関心ここに極まるといった感じだ。
そんな無関心さの間を潜って僕は、アイドルですらない女の子について、今更ながら考えているわけだ。
まあ、単純に高校に進学しなかっただけなんだとは思うけど。

ここまで書いてきて、垣間見えてくる自分の性根の悪さと向き会うのは非常に妙な気分だ。
ニュアンスが難しいけど、このネガティヴな感じが僕特有の思考回路じゃないんだったら、日本人って本当性格悪いよなーなんて思ったりもする。
だって、そんな人の得体の知れない事情を勝手に妄想するっていう行為を誰もがしてて、誰にも話さないなら、人なんてほんと信じられません。
なんつーか、汚い。
仮に彼女が実際にアイドルだったらしょうがないかもしれない。
芸能人はそういう妄想を一般の人にさせてあげる仕事だから。
でも、ただの同僚、ただの知り合い程度にこういう推測を並べるのは気持ちが悪い。
結婚してるのに子どもがいないって人に「なんで作らないの?」と聞きもしないで、その理由を一人きりでずっと悶々と考えてるだけみたいな気持ち悪さだ。
つまり、僕は気持ち悪い。
そして、反芻するようだけどこの気持ち悪さが僕だけのものじゃないなら、はっきり言って他人は怖い。
僕はそう思う。